スタバで起きたカイダン話

これは、以前僕が体験したちょっと不思議な出来事である。

 

つい先日、イオンモールのスタバで一人パソコンでバイトをしていた時のこと。

デスクで作業していると隣のテーブルに女子大生(?)二人組が腰をかけた。その日は休日であったため、イオンモール内は賑わっており、スタバにもかなりの客がいた。単調作業であったため、半ばボーッとしながらパソコン操作をしていると、

 

「私、ついに彼氏に別れを切り出そうと思うんだよね。」

 

という言葉を女性Aが発した。会話の内容を少し盗み聞きしてみた感じ、Aさんが女性Bに恋愛相談をしているようだった。「よくありがちな話だな」と思いながらその人たちの話を少し聞いてみると、彼氏は

・現在22歳(おそらくAIU生ではない)

・Aさんとは大学のサークルで知り合った(Bさんは知らない)

・付き合って半年になろうとしているところ

・性格はちょい優しいくらい

といった感じで、今まではかなり順風満帆に付き合っていたらしい。そんなこんなで恋愛話を二人でしていると、Bさんが

「どうして別れようと思ったの?」ときいた。どうせ何かしらトラブルがあったんだろうなとか思いながら聞いていると、

 

「カイダンの話がしんどくて…」とAさん。

 

 

…ほう。どうやら彼氏はホラーが好きで、彼女は彼氏のホラーの話やそういった趣味が怖くて嫌いになってしまったと、そう僕は解釈していた。

「え、そんなに彼氏ホラー好きなの?笑」と茶化すBさん。しかし、その次に発したAさんの言葉に、Bさん、そして僕は思わず耳を疑った。

 

 

 

「あ、その怪談じゃなくて階段の方ね、ほら、上り下りする方の…」

 

 

 

 

…ん?

 

 

 

 

…え、そっちの階段?…は?

 

 

「え、どういうことwww」とBさんも大爆笑している。Aさんは必死に彼氏との階段エピソードをいくつか話した。

・階段を使うたびにどういう種類・材質かを分析する

エスカレーター・エレベーター大アンチで、使おうとすると怒られる

・階段を上り下りするたびに何段だったか問題を出してくる。正解すると喜ぶし、外すと若干イラつく。

極めつけは春休み、Aさんと彼氏が東京に旅行して東京タワーに登ろうとした時に、Aさんはエレベーターで登ろうとしていたが、彼氏は頑なに譲らず、結局階段を使って登ろうとしていたらしい。その際に、軽く喧嘩になってしまい。体力的にも辛くその出来事から彼氏に対して冷め始めたとのことだった。

 

そこら辺から僕は二人の話に夢中になっていた。パソコンが長時間操作していないせいで画面が暗くなっている。僕は慌ててマウスを左右に走らせ、作業をしているふりを装った。

 

一度口火を切ったAさんの階段愚痴は止まることを知らない。1段飛ばしで登っていく中学生にキレたり、旅行先を選ぶときは全て有名な階段がある場所から探して提案したり(東京タワーも階段を登りたいから提案されたらしい)。いったい階段になんの魅力があるのか、僕は半ば呆れながらAさんに同情しつつ耳を傾けていた。

 

 

Bさんも、時には笑い、時には引いたりしながらAさんの愚痴を聞いていた。すると、Aさんから

「どのように別れを切り出せばいいだろう」

という質問がBさんに投げかけられた。どうやら彼氏は少しメンヘラ気質があるらしく、Aさんは別れるならキッパリと別れを告げたいそうなのだ。二人でしばらく熟慮していると、Bさんがふいに

 

「階段の悪口をものすごく言ってみたら?」

 

と言った。

Bさん「彼氏がそこまで階段のことが好きなら、その階段を散々バカにしたら彼氏もAさんのこと嫌いになってスパッと別れられるんじゃない?」

Aさん「え、でもそれで気まずくなるのもなんかなぁ…」

Bさん「いやそんなこと言ってたら彼氏はずっとひきずってくるよ、そうならないうちにキッパリと言っちゃうのがいいって」

Aさん「そういうもんかぁ…」

 

と、長いやり取りの末、Aさんは階段を限りなくディスって別れる作戦にすることに腹を決めたらしい。ちなみに、僕はこの時にはもうパソコンは閉じ、フラペチーノ片手に本格的に二人の話を聞く体制をとっていた。

 

階段の悪口を考える二人。無機物であることをいいことに言いたい放題。彼氏が聞いたら失神してしまうのではないかというくらいありったけの罵詈雑言を考えだし、別れる決意を固めたAさん。そんなこんなで話がまとまり、店を後にした二人。

 

 

 

…何かが胸をつっかえていた。

 

二人がいなくなった後、僕はストローが入っていた袋を折ったりして遊びながら二人の会話を反芻した。何かが気になる。このモヤモヤはいったいなんなのか。そうやって暫く耽っていると、その何かにようやく気づけた。

 

 

 

 

 

いくらなんでも階段をバカにしすぎじゃないだろうか。

 

 

 

確かに、Aさんに対する彼氏の態度は目に余るものがある。別れるのも納得。でも、でもだ。階段それ自体は何も悪くないじゃないか。

 

AさんとBさんは一心不乱に階段への悪口をあげていた。踏みつけられるだけの無能、昭和に生まれた時代遅れの老害、人から快適さを奪う悪魔…そんなに言わなくたっていいじゃないか。多分昭和の前にも階段あっただろうし。

 

僕は閉じていたパソコンを急いで開き、階段の魅力を検索した。ほら、こんなにもユニークでおしゃれな階段があるじゃないか。階段は古来から進化という名の”階層”を上り詰め、今や芸術の一部として昇華した先人の知恵の結晶なんだぞ。何が老害だよマジで。

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…そこまで考えたところでハッとした。自分は何を考えているのか、これではAさんを苦しめていた彼氏と同じじゃないだろうか。

 

 

 

……まさか。

 

 

 

 

まさか。彼氏は僕と同じように階段を調べ、その魅力に陶酔してしまったせいで、階段という魅力の”螺旋階段”を永遠と彷徨っているのではないか…

 

 

 

 

 

俺が、救わないと。

 

 

 

 

氷と混ざって薄くなったフラペチーノ。一気に胃の中に流し込み、階段という名のスパイラルに迷い込んだAさんの彼氏を救うべく、そして、夕飯の買い出しのために、僕はエスカレーターでスーパーへと向かった。